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PA☆PASTA

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「キュッとして、パッと開くのよ」

ママが言った。

鍋の前に三人。それにワッフルで、今日のキッチンは満員だ。グツグツと白い泡を立てながら、大きなパスタ鍋がずーんと構えている。私はその縁に手をかけたくてたまらなくて、何度もお願いして、やっと先日、ママから許可が下りた。

ママが親指と人差し指で塩をひとつまみ、お湯の中へ散らした。白い粒が見えなくなるまでの一瞬だけ、キッチンが静かになった気がした。

「ホントに大丈夫?また今度にしてもいいよ」

「大丈夫!」

午前中にワッフルのしっぽで練習したのだ。ワッフルは愛犬で、ふわふわのしっぽがパスタの束にちょうどよく似ていて、キュッと握ってみたら、プリプリとおしりごとあっちに行ってしまった。もう触らせてくれないけれど、練習はした。

台に乗って、パスタの束を両手で持つ。乾燥した麺がひんやりしている。

キュッとするのはなんの意味があるんだろう、とさっきからずっと考えている。握らなかったら、パッとうまく開かないのかな。自転車で左に曲がるときに、少しだけ右に傾けるみたいな、あの感じかな。

「キュッて、こうやって絞ってから、一気に手を離すんだよ」

パパがママの言ったセリフを言い直した。

ふたりがほぼ同じことを言っている。言葉は違うけれど、意味は同じ。でもふたりは顔を見ていない。それぞれ私のほうだけを向いている。

私はずっと知っている。

最近、毎晩、私が寝たあとに、パパとママが低い声で話しているのを。喧嘩の声だってわかる。笑っていない声だから。ワッフルもわかるみたいで、いつも私の布団に潜り込んできて、ふわふわのお腹を押しつけてくる。ふたりで毛布にくるまって、ギュッとしながら、聞こえないようにしている。聞こえなければ、なかったことになるかも、と信じながら。

ふたりは私を挟んで、鍋の両側に立っている。いつもより、近い気がした。

「よ〜し、いくよ」

台に乗ったまま、息を吸う。す〜。は〜。

むかしテレビの朝の番組でみたシェフは、こういうとき決めポーズで鍋に向かっていた。私も、これだけは。

「キュッ! キュウ〜!!」

「絞りすぎじゃない?」パパが言う。 「いいのよ、もっと絞っちゃえ!」ママが言う。

ふたりが同時にしゃべった。同じ方向を向いて、私のことを見て、しゃべっている。腕がエックスになるくらい絞って絞って、さん、はい!

ぱ!!!!!

麺がお湯に飛び込んで、白い泡が跳ね上がった。やった。やれた。だけどすぐにハッと気づく。ソースを用意してない。具も何もない。麺だけのパスタになっちゃうよ。

「そんな〜ときには〜」

「そんな〜ときには〜」

ふたりの声がまた重なった。今度は顔まで向かい合っていた。パパがすごい速さで引き出しを開けて、袋を取り出した。和えるパスタソース。完熟トマトカルボナーラ。どっちやねん、という味。

みんなで食べた。口の周りが真っ赤になった。パパがママを指さして笑って、ママがパパを指さして笑った。私もふたりを指さして笑った。ワッフルは玉ねぎ入りだったから食べられなくて、かわりに好物のささみジャーキーをもらって、しっぽをプリプリしていた。

キュッとして、パッと開く。

きっとそういうことが、大事なのだと思う。麺のことだけじゃなくて。

次は、具材も全部自分でつくって、ちゃんとソースと合わせて、またここに立ちたい。四人で。—絶対に。

“Squeeze it tight, then let go all at once.”

Mom said that.

Three people in front of the stove. Add Waffles, and the kitchen is completely full. The big pasta pot sits there gurgling, sending up little white bubbles. I’d been begging and begging for weeks to be the one who drops the pasta in, and just the other day, Mom finally said yes.

Mom pinched a bit of salt between her thumb and index finger and scattered it into the water. Just for a moment — the moment those white grains disappeared — the kitchen felt quiet.

“Are you sure you’re ready? We could always wait until next time.”

“I’m ready!”

I practiced that morning on Waffles’ tail. Waffles is our dog, and her fluffy tail is just about the right size to be a bundle of dry pasta. I squeezed it — and she trotted away, wiggling her whole bottom in protest. She hasn’t let me near it since. But I did practice.

I climb up on the step stool and hold the pasta bundle with both hands. The dry noodles feel cool against my palms.

I’ve been wondering this whole time: what’s the point of the squeeze? If you don’t squeeze first, can’t you open it right? Maybe it’s like when you’re turning left on a bike and you tilt just a little to the right first — something like that.

“Squeeze it like this — then release all at once.”

Dad repeated what Mom had just said. In different words, but the same meaning. Except neither of them was looking at each other. They were both facing me.

I’ve known for a while now.

Every night lately, after I go to bed, Mom and Dad talk in low voices. I can tell it’s fighting. Their voices don’t have any laughing in them. Waffles seems to know too — she always burrows into my covers and presses her soft belly against me. We curl up together under the blanket, squeezing tight, trying not to hear. Believing that if we can’t hear it, maybe it never happened.

The two of them are standing on either side of the pot, with me in the middle. They feel closer than usual.

“Okay — here we go.”

Still standing on the step stool, I breathe in. In… out…

I remember the chef I used to watch on a cooking show on morning TV, years ago. He always had a signature move before he went in. I won’t lose on that front, at least.

“Squeeze — squeeeeze — !!”

“Isn’t that too much?” Dad says. “No no, squeeze more!” Mom says.

They both spoke at the same time. Facing the same direction. Watching me. I twist and twist until my arms form an X — three, two, one —

Pa!!!!!

The noodles plunge into the boiling water and white bubbles leap up. I did it. I actually did it. But then I realize with a jolt: I didn’t prepare any sauce. No toppings either. It’s going to be plain pasta.

“For times like these —”

“For times like these —”

Their voices overlapped again. This time, they were facing each other. Dad yanked the drawer open at lightning speed and pulled out a packet: store-bought pasta sauce. Ripe tomato carbonara. A flavor that couldn’t make up its mind.

We all ate together. Faces ringed red. Dad pointed at Mom and laughed, Mom pointed at Dad and laughed, I pointed at both of them and laughed. Waffles couldn’t have any — onions in the sauce — so she got her favorite chicken jerky instead, and her little tail went prit-prit-prit.

Squeeze tight. Let go.

I think that’s what matters. Not just for pasta.

Next time, I’ll make everything from scratch — all the toppings, the sauce, the whole thing — and I’ll stand right here again. All four of us. —Absolutely.

https://www.instagram.com/reel/DZKU-rTDcLz/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

はやはらよしろう

はやはらよしろう

ハヤハラヨシロウ
ユーモアでクスッと、楽しく伝わるイラストレーション。

ふと窓の外に目をやるとベランダに遊びに来た小鳥と目が合って、「なあに?」とちょこんと首をかしげている。

移りゆく平凡な日々の中で、なんでもない、クスッと笑える、ほんの小さなできごと。そんなひとつひとつの積みかさねが幸せを育むのだと思います。

その世界観をイラストレーションでお届けします。どんなときでもユーモアあふれるひとでありたいと思うとともに、魔法のようになんだって表現できるイラストレーションで、自分の感じたことをユーモアたっぷりに楽しくお伝えし、受け取った方がクスッと笑ってくださったら、、! こんなに嬉しいことはありません。

お問合せフォーム yoshiro★cup.com https://yoshiroo.net/ https://www.behance.net/yoshiroafbe
パソコン環境 Mac OSX 14.1.1
納品形態 Photoshop CC(フォトショップPSD/EPS形式)切り抜き納品可能

ABOUT
ドローイングのタッチで人や物を
誇張したり省略したり、楽しく表現します。
静止画でありながらも、思わず声を上げたくなるような、
前後の物語を感じるイラストレーションを心がけています。

本名のひらがな表記で、
はやはらよしろうとして活動しておりますが、

一緒に頑張ってきた屋号を大切にしたい
という想いから、たとえばイラスト掲載、ブックデザイン、
装画などで奥付に名前を掲載してもらえるときには、
はやはらよしろう(Office 446)と記載していただいています。

[はやはらよしろう/プロフィール]

1975年生まれ、大阪市在住。2000年よりイラストレーターとして活動。
制作会社退職後、2010年Office 446設立。
「ユーモアでクスッと、楽しく伝わるイラストレーション」を軸に
ユーモアあふれるタッチで人物、動物、ものを描く。
広告、書籍装丁、医療関係、保育書籍、教材、新聞記事などの案件がメイン。
表紙絵・カットを中心に出版・広告・WEBなどで活動中。
またグラフィックデザイナーとして
カタログ・パンフレット・書籍・雑誌・ロゴデザインも手がける。

【主な仕事歴】
メディカ出版『早わかり人工呼吸ケア』書籍カバー
メディカ出版『ナースのお悩み相談室』書籍カバー
青春出版社『小学校で習った算数で経済がスッキリわかる!』書籍カバー
Z会出版『ZSTAR総合英語』書籍挿絵(全編)
文理「わからないをわかるにかえる中1英語」書籍挿絵
文理「わからないをわかるにかえる高校入試英語」書籍挿絵
共同通信社「ワークルールを知ろう」配信記事
共同通信社「プロ直伝 こども安全術」配信記事
主婦と生活社「NHKためしてガッテン」雑誌挿絵
小学館『プレNEO げんきの図鑑』書籍挿絵
朝日新聞社『就活パートナーブック』パンフレット
ダイキン工業『オール電化のくらし』パンフレット
宝島社『南極料理人直伝! 作りおきレシピ』書籍挿絵
宝島社『腸内フローラが整う腸食レシピ』書籍挿絵
宝島社『しきたりいろは図鑑』書籍カバー・書籍挿絵(全編)
小学館『週刊ポスト』雑誌挿絵
フレーベル館『キンダーブック3』雑誌挿絵
数研出版『コメット2』書籍挿絵
PHP研究所『今日は何の日? 366』書籍挿絵
PHP研究所『からだスマイル』雑誌挿絵
宝島社『日本人のしきたりいろは図鑑』書籍挿絵
宝島社『ひつじのショーン わくわく迷路ブック』書籍カバー・書籍挿絵
くもん出版『くもんの小学ドリル漢字6年生』書籍挿絵
朝日新聞出版『のりもの知育ぶっく』書籍挿絵
メディカ出版『透析ケア』雑誌挿絵
学研プラス『京大こどもパズル』書籍挿絵
学研プラス『名作おはなしれんしゅうちょう』書籍挿絵
文理『わからないをわかるにかえる英語_改定版』書籍挿絵
学研プラス『ごみと環境』書籍カバー・書籍挿絵
フレーベル館『がくしゅうおおぞら』雑誌挿絵
西東社『ねるまえおんどく366』書籍挿絵
学研教育みらい『はっけん!』雑誌挿絵
関塾『経営者会報ひらく』会報誌表紙
ファンケル『元気生活』会報誌挿絵
あかね書房『スッキリ&ハッピー!整理整とん』書籍挿絵
光文社『VERY』雑誌挿絵 など

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